サッカー

2011年5月18日 (水)

「Jの履歴書(川渕三郎)」

Jリーグ発足と運営の中心人物である、川渕三郎氏による回顧録。(恐らく)日経新聞「私の履歴書」の大幅な加筆修正版だと思う。

日本サッカーの軌跡がこれだけでもわかるが、氏のJリーグを通じた日本サッカーに対する情熱が十分に伝わってくる。


Jリーグ発足前後は問題だらけであったが、「ここまで固有名詞や感情をストレートに書くか」と何度も驚いた。
特にヴェルディやナベツネ氏とのやり取りは、苦笑いしてしまう。
また日本のプロ野球(NPB)はまったく参考にしなかった点(あのようになってはいけないと反面教師にしていることがよく分かる)、読売新聞が撤退するときには「ホッとした」と言っている点なども面白しろい。


意思決定権はチェアマンにあり、自分とJリーグの理念に基づいて判断してきたことは、ビジネスでも経営者が経営理念に基づいて判断するのと同様、経営の書としても十分に支持される内容である。

小生は以前元NHKの杉山茂氏の講義を受けたことがあるが、その中で「川淵さんは日本サッカー界の先輩と喧嘩してでも理念を突き通す覚悟だったから、Jリーグは生まれた」と仰っていた。
読んでいると、様々な利害関係者からプレッシャーを受けても、Noのときは断固として拒否する気迫や執念
は鬼気迫るものがあると感じる。


経営者や管理職だけでなく、幅広いビジネスパーソンの方に受け入れられる内容だと思う。
特に新規事業立ち上げを任された方や起業をしている方は、特に勇気付けられるかもしれない。

サッカーファンは言うまでもなく必読。

2011年5月16日 (月)

28年目のハーフタイム(金子達仁)


1996年アトランタオリンピック、サッカー日本代表を取り巻く周囲やチーム内の現実を描いた作品。

Number掲載の「叫び」(川口能活のインタービュー)で知られざるチーム事情を書き、特定の選手がチームのためではなく個人のためにプレーしていたなど、衝撃的な内容で「よくここまで聞き出せた」と大御所ライターを唸らしたこの作品が生まれた発端である。


選手の悪口や暴露記事では決して無かったものの、本質を誤って理解した読者も含めてあまりの反響の大きさから、改めて多くの人にインタビューを重ねて年末号に「叫び」を掲載し、金子達仁氏はミズノスポーツライター賞を受賞している。

その2作品を加筆修正して、書籍化されたのが本書である。

ポジションによる意識のギャップ、監督と選手を巡る「ハーフタイム」での事件など、チームが最後は崩壊寸前であった知られざる事実、人間模様に圧倒される。


一次リーグでブラジルに勝利するという歴史的快挙を達成したものの、ナイジェリアに敗れ、ハンガリーに勝利したものの得失点差でリーグ突破はならなかった。

しかし、その善戦は日本国内でも十分に讃えられたことは、当時を知る人は覚えていると思う。


小倉という絶対的なキャプテンを予選で失い、前園・中田英寿・川口能活・松田など個性あふれる選手達と西野監督それぞれが「世界」に対する皮膚感覚や目標が異なっていたこと、それが最後まで纏まらなかったことは、決して悲劇でないと指摘する金子氏の考えや本音を引き出すインタビュー力には脱帽である。


組織である以上、どこにもで起こりうる話であり、読者の置かれている環境でも十分に活かせるヒントがあると思う。

尚、参考までに「叫び」は「Sports Graphic Numberベスト・セレクション〈1〉」に収録されている。
私は山際淳司氏の「江夏の21球」と共にNumberを代表する作品だと思っている。



2011年5月 2日 (月)

「史上最強バルセロナ 世界最高の育成メソッド(ジョアン・サルバンス)」

FCバルセロナのカンテラ(下部組織)監督経験者による選手育成方法の書。8歳から1歳刻みでチームがあり、バルセロナの哲学が少年たちにも指導者を通じて完全に行き渡っており、カンテラ出身でトップチームや他のチームで活躍する選手が生まれている背景がよく分かる。


組織、戦術面においてカントラではどのように教えるかにも触れているが、全体にわたり指導法や規律を重んじて精神面の成長を促す教育方法、選手との接し方が随所に書かれている。

ジョアン・サルバンス氏をはじめ、指導者は皆プロであり当然だが成果を求められている。
短期的な成果もコミットされながら、将来がある選手たちをどのように伸ばしていくか、監督としての成長意欲が高いことも十分に伺える。


第三章の「優れた指導をするために」では叱り飛ばすのではなく、選手達をどのように納得させて意識を変えていくのかというプロセスの重要性を詳しく指摘している。
これはビジネスでも日常生活でも十分に共有できる内容である。

また第四章では東海大付属菅生高校でのコーチ経験を踏まえて、日本サッカーが欧州を追いかけるために必要な点を、下部組織の指導者としての視点で指摘している内容も興味深い。


ジョアン・サルバンス氏は1974年生まれ。その若さにも驚いた。


2011年4月30日 (土)

「決定力不足でもゴールは奪える」(杉山茂樹)


決定力不足を「フォワードの能力不足」、得点力不足を「チームとしての問題」と分けられる。世界と比べて日本は決定力不足であることを認めることと、それを補う監督のアイデアが不足していると指摘している。
※本が出版されたのは2009年(ワールドカップ南アフリカ大会前であり、岡田監督時代)。

ヨーロッパサッカーの戦術や得点を奪うまでのプロセスは数多くのパターンが存在し、その動向と日本サッカーを比較して丁寧に説明しているので、サッカーの奥深さを知る上でも参考になる。
※杉山氏は欧州サッカー観戦数が日本でも屈指のサッカーライターであり、戦術に関するレポートも相当数ある。

ワールドカップ南アフリカ大会より前に出版されているが、本田や松井の動きがチームプレイとして理にかなっているとその根拠も含めて指摘している点も興味深い。


サッカーは単に個人の技術だけのスポーツではないことがよく分かるし、自分では気付かない日本人の誤った固定概念(「中盤を制する者が試合を制する」など)に問題提起することも出来る。
新書でありマニア向けでなく、「サッカーはTVでたまに見るという」人には最適なレベルの内容。


2011年4月29日 (金)

「ゴールは偶然の産物ではない」(フェラン・ソリアーノ)

現在はスペインの航空会社で会長を務めるソリアーノ氏が、03~08年にFCバルセロナの副会長として改革手法と成功事例を本人が記した本である。

氏は異業種からマネジメントのスペシャリストとして就任して改革を断行し、成果をあげた点で一般のビジネスパーソンの方にも多く読まれた。


「サッカービジネスが他のレジャーとどのように違うか?」「より収益を上げるにはどうすればいいか?」など、一企業のマネジメント事例として読むと有益な情報が多い。
市場や他チーム(マンチェスターUやレアル等)との比較やバルセロナの現状把握を踏まえた戦略策定、リーダーシップや人材採用と育成、文化が異なる相手との交渉方法などにも踏み込んだ経営論や実際のリアな内容が書かれている。
また翻訳者の功績も大きいと思うが、構成から文章まで非常に読みやすい。

経営者のマネジメントに関する本を読みたいと思っている方には、この本も是非含めて頂きたいと思う。



2011年4月27日 (水)

「4-2-3-1 サッカーを戦術から理解する」(杉山茂樹)

文芸春秋から発行されている有名スポーツ雑誌「Number」でもお馴染みのサッカーライターによるフォーメーションと戦術の解説本。
新書ということもあるのか、「サッカーは代表戦くらいは観るけど、戦術についてはなんとなくしかわからない」という人には最適な説明と内容になっている。


4-4-2とか3-5-2とかサッカーの試合ではアナウンサーがフォーメーションを言うものの、具体的には「それぞれどんなものなのか?」を欧州や各国代表チームの例を取りながら解説している。
「解説」といっても小難しく退屈な内容ではなく、ライターだけに文章も上手なので読みやすい。

戦術は日々進化し、センセーショナルなサッカーをするチームが現れれば、すぐにそれに対抗する戦術が生まれる。
また何よりも監督の理念や国民がサッカーに求める想いが反映されているというのも、読んでいて理解できる。
「どうしてチャンスが生まれているのか?」「どうして攻められているのか?」「得点はどのように生まれたか?」など、代表戦しか見ない方でも見る楽しみが十分増えるのではと思う。

トルシエやジーコの実例も出し、相変わらず日本代表には辛口な著者だが、それはご愛嬌(但し感情論ではない)。



2011年4月26日 (火)

「言語技術」が日本のサッカーを変える(田嶋幸三)


日本サッカー協会の選手育成方法のうち、人間性の向上について実践している内容について纏めた本。

選手といっても小学生~高校生のことを指し、技術だけでなく論理的思考力や言語技術、人間性などスポーツだけではなく人として大事な教育を深く行っていることがわかる。
少し逸れるが「文武両道」という言葉を頭に浮かべながら、その本当の意味はこういうことかもと思った。

少年少女スポーツでコーチをやられている方々や部活の顧問をされている先生方には特に参考になると思うし、ビジネスでもコミュニケーションや人の育成と言う点で役に立つヒントが多く存在する内容である。

欧州諸国の育成方法を参考にしながら試行錯誤し、日本サッカー協会の理念を通じて「どのような選手に育って欲しいか」を明確にして選手を育てている地道な努力には感動すら覚える。
今や欧州で活躍している日本人選手が相当に増えたが、彼らは技術や身体能力が優れていただけでなく、この本に書かれているような教育によって得た人間性も大きくプラスになったのだろうなと想像する。


この本はスポーツ好きとか関係なく読むことが出来るし、勿論サッカーファンも十分楽しめる。
どのくらいの発行部数かわからないが、必ずしもサッカーファン向けに書かれた内容ではない点で、もっと話題になっても良い本だと思った。



2011年4月23日 (土)

「日本人はなぜシュートを打たないのか?」(湯浅健二)

ドイツでサッカー留学、コーチ留学の経験を持つ著者が、コアなサッカーファンに限らず話題になったテーマを取り上げた本。

日本の教育制度や文化に苦言を呈した内容ではなく、ドイツ在住時代に経験したシュートに行くまでのプロセスや選手への教育について中心に書かれている。
単純に「技術が足りない」「失敗への恐れ」「民族性」が原因で日本人がシュートを打たないという訳ではなく、普段からの選手への教育やそもそもサッカーの魅力や本質は何か?に踏み込んだ良書。

ワールドカップでベスト16入りやアジアカップ優勝でこの話題は沈静化しつつあるが、ストレートなタイトルであるものの、シュートに至るまで実に多くの技術と思考プロセスとが絡んでいることがわかる。

コアなサッカーファンでなく、代表戦だけしか見たことが無いという方でも問題なく理解できる本である。